成年後見制度を利用する
プロローグ
久しぶりに実家に帰ってみると、親の様子がなんだかおかしいと感じたことはありませんか? 同じことを何度も言う、今日は何日、今何時と何度も聞く、些細なことで不安がり、怒りっぽくなっている・・・・・これは、認知症の症状かもしれません。進行すると、お金の管理ができなくなったり、身の回りの手続きに支障が出ることもあります。悪徳商法に巻き込まれる危険だってあります。親がおかしい、或いは自分自身がおかしいという自覚があるのなら、きちんと脳の検査を受けたうえで、対策を考えた方がいいのではないでしょうか。成年後見制度の利用も選択肢になります。
成年後見制度は精神上の障害 (知的障害、精神障害、認知症など)により判断能力が十分でない方が不利益を被らないように 家庭裁判所に申立てをして、その方を援助してくれる人(後見人等)を付けてもらう制度です。
認知症のチェックシート
これは、認知症の家族がつくったチェックシートです(公益社団法人認知症の人と家族の会)。なるほどと納得してしまいます。自分にも当てはまる項目が何カ所かあって、少し不安になりますが、まあ年なのだからある程度は仕方がないかな。もし該当項目が多ければ、一応専門家に相談に相談した方がよいのではないでしょうか。個人的にこれはまずいと思うのが、4・5・9・10・18あたりです。
●もの忘れがひどい
□1 今切ったばかりなのに、電話の相手の名前を忘れる
□2 同じことを何度も言う・問う・する
□3 しまい忘れ置き忘れが増え、いつも探し物をしている
□4 財布・通帳・衣類などを盗まれたと人を疑う
●判断・理解力が衰える
□5 料理・片付け・計算・運転などのミスが多くなった
□6 新しいことが覚えられない
□7 話のつじつまが合わない
□8 テレビ番組の内容が理解できなくなった
●時間・場所がわからない
□9 約束の日時や場所を間違えるようになった
□10 慣れた道でも迷うことがある
●人柄が変わる
□11 些細なことで怒りっぽくなった
□12 周りへの気づかいがなくなり頑固になった
□13 自分の失敗を人のせいにする
□14 「このごろ様子がおかしい」と周囲から言われた
●不安感が強い
□15 ひとりになると怖がったり寂しがったりする
□16 外出時、持ち物を何度も確かめる
□17 「頭が変になった」と本人が訴える
●意欲がなくなる
□18 下着を替えず、身だしなみを構わなくなった
□19 趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなった
□20 ふさぎ込んで何をするのも億劫がりいやがる
成年後見制度の分類
成年後見制度には、判断能力がすでに低下している場合に家庭裁判所に申し立てる「法定後見制度」と、現在は判断能力があるが将来に備えて契約をしておく「任意後見制度」があります。法定後見制度は判断能力によって、さらに後見、保佐、補助の3つに分けることができます。日常的に判断能力を欠いている状態が後見、判断能力が著しく不十分な場合が補佐、判断能力が不十分な場合が補助の対象となりますが、これではよく分かりませんね。実際には、医師による精神鑑定に基づいて家庭裁判所が判断することになります。
法定後見の場合
・認知症により不適切な契約や買物、カードの使用を行う可能性がある⇒契約の取消し
・身の回りの手続きが自分で行えない場合⇒介護やホームヘルパーなどの契約締結
・財産管理が金融機関で進められない⇒通帳の再発行、金融商品の解約、生活費や入院費の引出し
・遺産分割協議をすすめるため⇒認知症の相続人がいると分割協議ができない
・不動産の売却、不動産の管理
・悪徳商法に巻き込まれないための予防
任意後見の場合
・後見になる人を自分で指定し、依頼する内容も指定したい場合
・一人暮らしで、将来のサポート体制がない場合
⇒病気になってたときの入退院の手続きやお金の支払い、介護施設への入所契約
・夫婦二人きりで子供がいない場合、一方に何かがあると生活に支障がある場合
・親の面倒を見ている子が、自分にもしものことがあった場合に備えて
・障がいを持つ子を育てている親が、自分にもしものことがあった場合に備えて
成年後見制度の申請手続きの流れ
《法定後見の場合》
1.申立人と後見人を決める
申し立てができるのは、本人、配偶者、4親等以内の親族、市区町村長です。後見人になるのは親族が多いですが、弁護士や司法書士、介護福祉士などの専門家に依頼するケースも増えています。
2.家庭裁判所の書式を取り寄せて作成
家庭裁判所、インターネット、区役所、地域包括支援センター等で取得可能。司法書士等に書類一式を作成してもらうと5万円~10万円程度の費用が発生。
3.主治医に診断書(精神鑑定)を作成してもらう
5万円~10万円程度の費用が発生。
4.診断書以外の書類も準備する
本人や成年後見人について戸籍謄本、登記事項証明書、身分証明書など所定の書類を揃える
5.家庭裁判所の申立日を予約する
6.家庭裁判所で、調査官、参与職員の面接を受ける
7.家庭裁判所から審判所が届く
申立から審判が下りるまで約二か月
成年後見制度の申立費用
1.申立費用
全部自分で手続きを行うのなら、8,000円前後です。家庭裁判所の申立に際して納めるのが800円、成年後見登記の費用が2,600円、切手代が3,000円ぐらいです。司法書士等に依頼をするとプラス5万円~10万円の費用が発生します。
2.精神鑑定費用
5万円~10万円
3.成年後見人への報酬
家族の場合は報酬を取らないケースが多いが、第三者、専門家が就任する場合は、家庭裁判所が報酬を決める。だいたい1月2万円~5万円が相場。
成年後見人の仕事
身上監護
日々の見守り、不動産の賃貸契約、介護契約、入退院の契約、老人ホーム・福祉施設などへの入所契約、これらに伴う金銭の支払い
財産管理
預貯金・金融商品の管理、金融機関との取引、不動産の管理、遺産分割
成年後見人ができない行為は
1.医療に関する同意権、拒否権
2.本人の身体に関する拘束
3.一身専属的な項目(婚姻、養子縁組、遺言)
成年後見人(法定後見)の欠格事由
未成年、破産者、成年被後見人に対して訴訟を起こしたもの又はその配偶者、行方不明の者など
生前事務委任契約・死後事務委任契約
任意後見制度では、まだ自本人に正常な判断能力があるうちに契約するので、契約時と効力発生時にずれが生じます。実際に認知症の症状がみられるようになったら、家庭裁判所に申して、任意後見人の仕事をチェックする任意後見監督人がつけられてから、契約で定められた仕事(財産の管理など)を行うことになります
認知症は昨日まで普通なのに、今日いきなり発病するというわけではありません。人間年を取ると、少しずつ心身が衰えていくもの。であれば、まだ認知症とはいえなくても、財産管理は誰かに委ねたいと考えることもあるはずです。その場合、生前事務委任契約を結んでおくこともできます。特定の事務だけを委任しておき、認知症になったら任意後見がスタートするというわけです。
また、任意後見契約は原則として本人が死亡すれば終了しますが、身寄りのない方の場合、それでは不便なことがあります。死亡届を誰がするのか、葬儀埋葬の事務手続きはどうするのか、病院や介護施設への未払い債務をどうするのか、そのほか身辺整理は等々、最後まできちんとやってほしいという需要はあるわけですね。その場合は、死後事務委任契約まで含めて契約しておくという方法もあります。生前事務委任契約⇒任意後見契約⇒死後事務委任契約の一連の流れで移行型の契約を結ぶということです。本当に信頼できる人を見つけるというのも、難しいことかも知れませんが。
おまけのデータ
<裁判所 成年後見関係事件の概況 平成27年1月~12月>
・申し立て件数 総数 平成23年 31,402 (内 後見 25,905)
平成24年 34,689 (内 後見 28,472)
平成25年 34,548 (内 後見 28,040)
平成26年 34,373 (内 後見 27,515)
平成27年 34,782 (内 後見 27,521)
・申立人(以下平成27年)
本人の子 30.2% 市区村町長 17.3% 本人の兄弟姉妹 13.7% 配偶者6.6%
・申請理由(複数回答あり)
預貯金等の管理・解約 28,874件 介護保険契約(施設入所)11,588件 身上監護 8,951件
・鑑定費用
5万円以下 60.9% 5~10万円以下 36.6% 10~15万円以下 2.0% 15~20万円 0.4%
・後見人
親族42.2% 第三者57.8%
司法書士 7,295人(6,382)弁護士 5,870人(4,613) 社会福祉士3,332人(3,121)
・平成27年における成年後見制度の利用者
利用者総数 191,335名
内後見 152,681名
保佐 27,655名
補助 8,754名
任意後見 2,245名
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