介護にかかるお金の話
プロローグ
日本人の平均寿命は世界保健機関(WHO)が発表した2016年版の「世界保健統計」によると、83.7歳で世界で首位。男女別では、女性が世界首位の86.8歳、男性が6位の80.5歳。長生きすることは素晴らしいこと・・・・ただし、健康でやりたいことができるのなら。WHOによれば、介護を必要としないで自立した生活を送ることができるいわゆる「健康寿命」は75歳だといいます。ということは、約10年間は要介護の時期を過ごすことになります。
生命保険文化センターの調査(平成24年)では、介護の期間は平均で4年9か月、4年以上も46%に上っています。期間が長くなればなるほど、費用もそして介護する側の肉体的、精神的負担も大きくなるわけです。では、介護費用はどのぐらいかかるのでしょうか?
介護費用の目安
要介護度によっても違うし、在宅介護か施設介護か、また同居の親族がいるかどうかでも全く違うので、平均額というのはあまり意味のない数字です。一応の目安として家族が同居して介護する場合の介護費用の平均は、一番軽い要介護1で5万5,000円、一番重い要介護5で10万7,000円(平成23年家計経済研究所調査)というデータがあります。
介護保険により利用限度額(地域によって異なる)までの介護サービスを受けた場合、自己負担は一割で済むということは皆さんよくご存知だと思います。要介護5の場合、利用限度額は380,650円ですから、実際に支払うのは36,065円で済みます。36,065円ならば、払えない額ではないという気もします。ところが、実際の介護費用の平均は10万7,000円ですから、この差はいったい何なのか気になるところです。
介護費用は介護保険だけでは賄えない
在宅介護にかかる費用は、訪問ヘルパーやデイサービスの利用など介護保険による介護サービスの利用にかかる費用と、 医療費やおむつ代などの介護サービス以外の費用があります。介護保険による介護サービスであっても、たとえば家族が仕事を持っている場合は、利用限度額を超えてでもサービスを利用せざるを得ません。限度額を超えるといきなり全額負担になってしまうのです。また、家事サービスの中には介護保険の対象外となるケースもありますし、認知症の方であれば徘徊対策で警備会社と契約することもあるでしょう。介護費用は介護保険の1割負担だけでは済まないということは認識しておく必要があります。
公的補助制度
もっとも、利用できる公的補助制度はいろいろあります。介護保険では要介護度(1~5)に応じた限度額内の介護サービスを利用するなら自己負担額は1割ですが、その1割についても、実は同じ月の合計額が上限額を超えると、超過分が申請により戻る「高額介護サービス費」という制度があります。2015年8月から合計所得が160万円以上の方については、介護保険の自己負担が2割に引き上げられましたが、高額介護サービス費があることにより、負担増はある程度緩和されることになります。
介護費用だけではなく医療費もばかになりませんね。毎年8月~翌年7月に同一世帯で医療にかかった自己負担+介護にかかった自己負担が自己負担限度額を超える場合、超過分が申請により支給される「高額介護合算療養費」という制度もあります。自己負担限度額は、所得や年齢によって細かく分けられていますが、70歳以上の場合、現役並み所得者(課税所得145万円以上)では67万円、一般の方で56万円を超えると、お金が戻ってきます。
このほか、対象となる福祉用具をレンタルした場合は、レンタル料の自己負担は1割で済みます。さらに、手すりの取り付けや段差解消などの住宅改修をする場合も、1回20万円を限度として、自己負担は1割となります。
在宅介護の負担が大きい場合は施設介護も検討
在宅での介護費用についてみてきましたが、介護費用の決め方には、介護サービスの利用量に応じて値段が決まる「出来高式」だけではありません。支払額が一定の範囲に収まる「定額式」もあります。
出来高式は、訪問介護や訪問看護などの在宅サービスに多く、定額式は特別養護老人ホームやグループホーム、介護付き有料老人ホームなどの施設介護が中心です。定額式は、どれだけサービスを受けたかにかかわらず、一定の金額を支払うため割高に見えますが、本人の要介護度や介護する家族の状況により多くの介護サービスを必要とする場合には、出来高式よりも費用を安く抑えることができます。
介護はいつまで続くかわからないので、費用だけではなく、介護する側が心身共に耐えられるかということも重要な視点です。利用できる制度は何でも利用し、デイサービスを利用するなど介護する側が息抜きできる時間持つことも大切です。それでも、費用の面や肉体的、精神的に限界ということなら、施設サービスを利用するのも選択肢でしょう。
介護サービスを受けられる施設・住宅の種類
介護は突然やってきます。父母に介護が必要になった時、老人ホームの入居費用を賄えるのかと不安を感じている方も多いはず。介護にかかる費用は、どこで、どのような介護を、誰に受けるかによって決まります。在宅で介護するのが難しい場合は、施設介護を検討することになりますが、さまざまなタイプがあるので整理してみましょう。
まず区別しておきたいのが、「介護付き施設」と介護は別契約となっている「住宅型の施設」です。介護付き施設としては、特別養護老人ホーム(公共)、介護付き有料老人ホーム(民間)など。住宅型の施設としては、サービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホーム、ケアハウスなどがあります。施設ごとの特徴と費用、サービス内容を確認した上で、施設に入居する目的が何なのか、優先順位は何なのか方針を決めることが大切です。
費用を押さえたいなら特別養護老人ホーム(特養)
介護付き施設で最も費用が安いのは特別養護老人ホーム(特養)です。入居金が不要で、毎月の費用の目安は、8万円~13万円ぐらいです。費用の内訳は、介護サービス費(要介護度に応じた定額)+食費+住居費ですが、一番安いタイプの多床室だと、1日当たりの居住費320円、食費1,380円程度。低所得者には居住費と食費の負担軽減措置があるので、居住費がゼロ、食費が300円まで軽減される方もいますから、所得の低い方は数万円に収まるということもあるわけです。
ただし、特養は要介護3以上でないと入居できませんし、希望者が多いためどこも満員。全国で52万人以上の待機者がいるといわれているので、2~3年は待たされることを覚悟しなければなりません。そこでいわゆる特養待ちとして、在宅で介護したり、安めの有料老人ホーム、ショートステイ、お泊りデイサービスなどでつないでいるというケースも少なくありません。
民間の介護付き老人保ホームの費用はピンキリ
この点、民間の介護付き老人ホームならすぐに入居することもできるのですが、設備やサービス面、価格に大きな開きがあります。入居金(一時金)300万ぐらい、月額利用料20万円前後の施設が多いですが、高額なところは、入居金として数千万円、月額利用料が40万円近くなるケースもあります。入居金を高めにして月額の費用を抑える、入居金を少なくして月額の費用を多くするなど、入居金と月額の費用のパターンを選べる施設もあります。入居金の償却期間は5~7年のケースが多く、入居時に一部を即時償却し、残金を一定期間で償却します。たとえば入居金が1,000万円で、入居時に250万円を償却、残金を5年で償却するというケースだと、1年で退去した場合は、(1,000万円-250万円)÷5年×(5年-2年)=450万円となり、450万円が返還金として戻ってくるということになります。
自宅を売却して老人ホームに入居する場合、戻る家はないので、施設選びはくれぐれも慎重に。事前に評判を調べるだけでなく、何度か見学をし、よく説明を聞くことが大大切です。運営会社はしっかりしたところか、入居金や償却、返還金の説明は明確か、必要とする介護サービスや医療が受けられるか、看取り(ターミナルケア)をしてくれるか、設備の状況や掃除が行き届いているか、介護スタッフの対応はどうか、入居者の表情はどうかなど、よく調べてから納得した上で契約するようにしたいものです。
サービス付き高齢者向け住宅では介護は別契約
住宅型施設の代表がサービス付き高齢者向け住宅です。2011年10月20日から都道府県知事の登録制が開始し、登録基準として、床面積25㎡以上、構造設備が一定の基準を満たす、安否確認、生活相談サービスを行う、長期入院の場合の解約制限、前払い金に関する入居者保護などの規定が盛り込まれています。税制優遇措置があることから、不動産や建設業界など異業種からの参入も多く、玉石混交という状態です。誤解されている方が多いのですが、「サービス付き」のサービスとは、あくまで安否確認、生活相談サービスがあるということ。介護サービスが必要な場合は、外部の業者と契約する必要があります。ですから、月額12万円~20万円の利用料(家賃)とは別に介護費用が発生し、この点は、ケアハウス(月額11万円~14万円)や民間の住宅型有料老人ホームも同様です。
民間の住宅型老人ホームには、入居金1億円を超えるところもあります。24時間356日の医師常駐体制、一流料亭の食事、広い豪華な居室、娯楽施設の完備された多目的ホール・・・・。ただし、基本的にはリッチで健康な高齢者が、ホテルライクな生活を楽しむためのもの。要介護になった時、本当に広い豪華な居室が必要か、毎日一流料亭の料理を食べたいと思うのか、冷静に判断する必要があります。
介護とマネープラン
施設での介護を検討するのなら、①入居金が準備できるか、②毎月の費用を払っていけるか、③医療費や予備費のストックできているかを見積もるのは必須。毎月の費用が年金だけで賄えないのなら、貯蓄を取り崩していくことになるので、長生きのリスクも当然考えなければなりません。親自身のお金で何とかならなければ、子の負担になります。子ども世帯が住宅ローンや子の教育費で家計が苦しい場合、親の介護費用の負担は重たいものがあります。いくらでもお金をかけられるのなら、設備サービスの面で充実して有料老人ホームを選ぶこともできますが、本人はよくても、家族がそれで生活できないというのでは意味がありません。賄える資金の中で、ベストな選択をするという姿勢が大切なのではないでしょうか。


コメントをお書きください